2023年9月29日
カーボンニュートラル実現に向けてクリーンエネルギーへの切替えが加速度的に進められる中、環境省は民間企業や地方自治体等が屋根や駐車場に太陽光発電を設置しその電力を建物内で消費する、いわゆる自家消費型太陽光発電※1の導入を促進し、2030年度までに20GWの導入目標を宣言しました。
Enewell-SOL P3A 25kW
また、再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT)の縮小とともに、エネルギー価格の高騰、BCP(事業継続計画)や環境対策など、企業の課題意識の高まりから、今後、自家消費型太陽光発電市場の拡大が予測されています。
自家消費型太陽光発電では、系統側への電気の逆流(逆潮流)が発生しないように、建物内で使用する消費電力を監視しながら発電電力をうまく制御することで、発電電力を最大限活用することが重要となります。
そこで、当社はこれまで培ってきたパワー変換技術を活用した、自家消費型太陽光発電システムに最適なパワーコンディショナEnewell-SOL P3A 25kW(以下P3A)を開発、これまでの製品に加え新たなラインアップとし
て2023年3月に日本市場での販売を開始しました。P3Aは、発電電力を最大限活用しCO2削減により、カーボンニュートラルの早期実現に貢献します。
※1 自家消費型太陽光発電とは
固定価格買取制度を利用して発電した電気を売るのではなく、自社設備で使用するものです。電力会社から買って使う電気から、自家発電の電気に変わることで、電気代が削減できます。休業日が少なく、日中の電気使用量が多い施設は、発電した電気を最大限活用できるため、自家消費型太陽光発電システムの導入に特に向いています。(環境省HPより)
P3Aは、自家消費型太陽光発電システム用途に特化した機能・構造で発電電力を自家消費へ最大限活用します。国産メーカーとしての知識を活かし、工場などの電源設備、設置環境を十分考慮した設計となっており、最小限の設備・施工費用で導入することが可能です。以下に6つの特長を示します。
系統側への電気の逆流(逆潮流)を防止する機能を内蔵し、200V級では最大級の出力となる25kWを実現しました。最大級の出力を実現したことにより、導入時にパワーコンディショナの台数が最小化でき、設備・施工費用の削減が可能となります。
図1に、P3Aを用い、逆潮流防止機能に対応した太陽光発電システムの構成を示します。建物内で使用する消費電力量を監視するマルチメーターから取得した電力データをもとに、総発電量が工場負荷を超えないように負荷追従演算でP3Aの出力を制御します。制御には応答性、安定性、制御精度が求められ、かつ複数台(最大31台)接続されるシステム全体を制御する必要があります。本開発では通信シーケンスと負荷電力追従方式の最適設計により、逆潮流防止を実現しました。
図1 逆潮流防止機能に対応したシステムの構成
従来機種Enewell-SOL P2A(以下P2A)の変換JIS効率93.5%を大きく上回る96%を実現しました。P3Aでは、低ロスIGBT、SiC-FETの採用や、DCリアクトルの鉄損低減、ACリアクトルの銅損低減など、発熱部品の損失低減設計を積み上げることで、システム効率が向上しました。また、これらの自己発熱低減は部品の高寿命化、製品の信頼性向上にも寄与します。
密閉(IP55相当)かつ外部ファンレス構造を採用することで、重塩害地域への設置に標準対応し、低騒音化(47dB以下)も達成しています。また外部ファンがないことで、メンテナンス工数の削減、保守費用の低減に貢献します。
図2 パワーコンディショナ内部熱流体解析
一般的には、外部ファンレス(自然空冷)は、外部ファンあり(強制空冷)に比べて放熱面積を大きくとる必要があるため、製品サイズの小型・軽量化とは相反する冷却方式です。そこで、本開発では、熱流体解析により、製品の内外気流をシミュレーション(図2)し、熱の攪拌や分散を詳細に解析することで、設計段階で各部品温度をより正確に予測し、最適な冷却構造の設計を実現しました。
表1 従来機種とのパワー密度比較
これによりP3Aは、外部ファンレス構造を採用しながら、表1に示すように従来機種P2A(外部ファンあり・定格出力容量比40%)に対し、パワー密度はおよそ1.8倍、質量あたりの出力容量はおよそ2.5倍に向上しました。
業界最小・最軽量レベルを実現したことにより、設置環境による制限を受けづらく、最小限の施工費用で設置が可能です。
系統に接続される電源が従うべきルール「グリッドコード」が各国で制定されています。日本においては、再生可能エネルギーの導入拡大に伴い、出力変動の増加による調整力の不足等のおそれが顕在化する中で、電力品質を確保し安定供給するために、2025年4月以降に適用される新要件「並列時許容周波数の技術要件」が追加されました。これは、系統周波数が並列時許容周波数(標準周波数+0.1Hz)以下の場合に発電設備の並列(系統電源への接続)を可能とする技術要件です。P3Aは、並列時許容周波数以下であることを確認する機能を搭載しており、新要件適用後も安心して継続利用が可能です。
日本国内での既存の三相200V級電源で一般的であるS相接地に、絶縁トランスを介さず直接接続でき、トランスによる効率低下が発生しないため、システム効率が向上します。システム構成を図3に示します。
一般的に、絶縁トランスは漏えい電流を小さくして漏電ブレーカーのトリップを抑制するために設置しますが、P3Aでは以下の手法を用いることで、トリップを引き起こすような漏えい電流過大の抑制を実現し絶縁トランスが不要なシステムを構築しました。
このため、絶縁トランスとその施工に係る費用負担や、トランス据付空間の確保が不要になります。
図3 絶縁トランスレス 自家消費型太陽光発電システム構成
新たに専用の通信用デバイスとなるゲートウェイ(Enewell Gateway)とクラウド(EneLeaf Cloud)を開発しました。これらはオプション品として P3Aと連携可能です(図4)。
これによりスマートフォンなどのスマートデバイスからP3Aの遠隔監視・操作が可能です。
また、温度計や日射計のセンサデータは、P3Aがハブとなりデータを収集し、それらのデータはゲートウェイ・クラウドを通してスマートフォンなどでモニタリング(視える化)ができます。
P3Aは、ゲートウェイおよびクラウドの連携により、初期設定や試運転調整、運転および保守の効率化に貢献します。
図4 P3Aとゲートウェイ・クラウドの連携
図5に、125kWシステム(太陽電池200kW)の太陽光発電システムを各社のパワーコンディショナで作る場合を例に挙げ、他社パワーコンディショナとP3Aとを比較したシステム構成(イメージ図)を図5に示します。P3Aは200V級S相接地を採用しているため、既存受電設備に直接接続でき新たにトランスを設置する必要がありません。トランスを必要とする他社パワーコンディショナと比較し、トランスによる損失影響がなく、設置スペースおよび導入費用がともに削減可能といった優位点があります。
図5 システム構成比較 イメージ図 (125kW システム(太陽電池200kW)の場合)
カーボンニュートラル実現に向けて、太陽光発電システムの普及を加速させることが必要だと当社は考えています。環境省が掲げる、「2030年度までに20GWの導入目標」を達成するために、今回、200V級で業界最大級となる25kWの自家消費特化型パワーコンディショナEnewell-SOL P3A 25kWを製品化しました。基本性能の向上に加え、遠隔操作を可能にするため、クラウドやスマートデバイスと連携させ、HMI(ヒューマンインターフェース)を充実させました。これにより接続機器のデータ収集と視える化、および効率的な初期設定や試運転調整、運転および保守が可能となりました。
次のステップとして、更新需要も見据えた機種仕様・容量展開を拡大し、国内外のお客さまのカーボンニュートラルに向けた取組みへの更なる貢献を目指します。