2023年4月12日
当社は、「加速する自動車生産変革/電動化へのレーザーソリューションの提案」をテーマに掲げ「第22回Photonix 光・レーザー技術展」に、溶接などの加工で使用されるガルバノスキャナ「MIRAMOTION」製品を出展しました。
近年、新世代レーザーが相次いで発表されており、銅の溶接に最適な青色レーザー(Blue)と基本波レーザー(IR)とのハイブリッドレーザー、リングモードレーザーなど業界のトレンドに対応した高速・高精度な「MIRAMOTION」を様々な事例を交え紹介しました。
今回、本展示会にて紹介した、新世代レーザーに対応した3Dガルバノヘッ
ドユニット※1「YD-3000IRM-B」、「YD-3000A」の開発コンセプトおよび開発成果を紹介します。
当社製サーボモータやロボットと「MIRAMOTION」を組み合わせて同期制御することで、金属・樹脂・電子部品の加工や溶接用途での、高速・高精度なモノづくりを実現します。当社では、加工・溶接工程における、お客さまの課題解決や生産性向上に「オール安川」で対応しています。
※1 3Dガルバノヘッドユニットとは
3Dガルバノヘッドユニットは主に、スキャナーモータ,スキャンミラー,制御ドライバ,集光光学系などから構成されており、レーザー光をミラーで任意の方向に制御します。
ハイパワーファイバーレーザーの低価格化を背景に、近年の産業分野におけるレーザー応用の広がりは目覚ましいものがあります。特に自動車製造工程で、従来の車体溶接に加え、世界的に投資の進むEV用のモータ (巻線溶接)や車載電池(電極箔のタブ切断、アルミセルの封函溶接、 バスバー溶接など)での採用事例が増加しています。
これらの工程では主としてファイバーレーザーが使用されていますが、波長1070nm(IR)のファイバーレーザーは、アルミや銅への吸収率が低いため、安定した深い溶け込みが得られにくく、また生産性を高めるためにパワーを上げていくと、スパッタ(溶融金属球)が飛散しやすいなど課題もありました。これを解決するため、主要なレーザーメーカーから、従来とは異なる新世代のレーザーが相次ぎ発表されています。
当社では、これらの新世代レーザーに対応した3Dガルバノスキャナヘッドユニットを業界に先立ち一早く開発しました。ハイブリッドレーザーに対応した3Dガルバノスキャナヘッドユニットでは、光学系を構成するレンズ硝材に対してそれぞれ屈折率の異なる2種の波長のレーザーを、スキャンエリア全域において正確に重畳させることで、最適な光学構成を実現しました。
今回以下2つの新世代レーザーに着目しました。
Blue (465nm)とIR(1070nm)をそれぞれ別の導光ファイバーから出射するものです。光学ヘッド側で光路を合成して、加工面上の1点に照射します。BlueとIRを重畳した加工面上の集光スポットは、高エネルギーのIRのビームの周りを、比較的広範囲に広がったBlueが取り囲むような同心状となります。
アルミ・銅などの高反射材料に対して吸収率の高いBlueを照射して加工面の温度を上げることにより、IRの吸収率を高め、かつ溶融金属の挙動を安定化させることが可能で、IR単独では難しいとされていた、安定した深い溶け込みを得ることができます。
波長1070nmのマルチコアのファイバーレーザーの一種です。導光ファイバーは、コアの周りに薄いクラッド層をはさんでリング状の第2のコアが配置されており、それぞれ、コアとクラッドの境界面で反射を繰り返し、それぞれ独立してコア内を進んでいきます。これと組み合わせる光学ヘッドにより、ファイバー端の同心円状の輝度分布が、共役である加工面上に結像投影されるので、加工面上に同心円状の輝度分布をもつレーザービームを照射することができます。溶接現象の安定化の原理は上記のハイブリッドレーザーと同様で、センタービームの周りのリングのエネルギーが溶融金属の挙動を安定化させる効果があります。
波長がIRなので、アルミ・銅に対する吸収率は従来のファイバーレーザーと変わりませんが、加工面上の径とエネルギーを最適化することで、銅のバスバー溶接で良好な結果を得た事例が報告されています。
これらの新世代レーザーは、以前より主に使用されているシングルコアのファイバーレーザーと比べて、溶け込みの安定やスパッタ低減など、様々な好ましい特長があり、今後の用途の広がりが期待できるものです。いずれも2系統のレーザー発振器を備え、それぞれ独立してパワー制御が可能です。
本展示会で紹介した、3Dガルバノヘッドユニット「YD-3000IRM-B」、「YD-3000A」は、前章で述べた新世代レーザーに対応しています。各々の開発コンセプトと技術特長を紹介します。
既存のハイパワーレーザー用3DヘッドユニットYD-3000シリーズをベースとしており、主な開発コンセプトは以下です。
・Blue 1kW、 IR5kWのハイブリッドレーザーが使用可能
・ベース機との部品共用最大化 (コスト配慮)
・加工面上におけるBlueとIRの同軸調整が可能
・ベース機用の撮像観察オプションユニットの使用が可能
図1 YD-3000IRM1.7-B3.0全体図
図2 光路合成部の概略構成
図1は、YD-3000IRM1.7-B3.0(数字は各レーザーの光学倍率を示す)の全体図です。外観上は鏡筒上部(点線枠内)の形状がベース機と異なり、Blue (手前)とIR(奥)それぞれの導光ファイバー挿し込み口を備えています。
他の構造部分はベース機種と同等で、構造部品の約90%を共通化しています。
図2は、光路合成部の概略構成です。BlueとIRのレーザーは、ファイバー出射後、平行光に変換された後、ダイクロイックミラー1(DM1)に導かれ、それぞれ透過・反射により同一光路に重畳されます。このとき、重畳された光(重畳光)は、互いの光軸が厳密に平行である必要があり、平行調整のためにブルー鏡筒の根元に光路調整部を備えています。
加工面から放射される様々な波長の光は(レーザーとは逆向きに)IRの光路を通り、ダイクロイックミラー2(DM2)によりレーザー光路から分離され(観察光)、カメラやフォトセンサーを用いて観察することが可能です。
これらの合成および分離に使われるダイクロイックミラーは、必要な波長を透過または反射させるためにそれぞれに専用設計された光学膜を備えています。
また、重畳前のIRの光路は、ベース機の構成を踏襲しており、ベース機の標準オプションである撮像観察ユニットをそのまま使用することができます。
上記1のハイブリッドレーザー対応機と同様、既存のYD-3000シリーズをベースとしており、主な開発コンセプトは以下です。
・センタービーム+リングビーム合計10kWの高出力に対応可能
・ベース機との部品共用最大化 (コスト配慮)
・ベース機用の撮像観察ユニットオプションの使用が可能
図3 YD-3000AL-3.5コリメート部断面図
リングモードレーザーの場合は2系統のコアがファイバー出射端において同軸状に配置されているため、ハイブリッドレーザー対応機のような光路合成や調整機構を設ける必要がありません。そのため設計はより容易です。
図3はリングモードレーザー対応機YD-3000AL-3.5のコリメート部(ファイバー出射後の発散光を平行光にする)の断面図です。リングコアから放射される光は、発散領域ではほぼ正規分布に倣うので、図のように光学ヘッド内ではセンターコアからの光と重なり合って進んでいきます。リングコアの発散角は従来の単一コアのマルチモードレーザーの一般的な発散角より大きいため、コリメートレンズのf値をベース機より2割程度短縮しています。さらに変更したコリメートレンズの特性に合わせて最終段の対物レンズの仕様を最適化することが必要ですが、他の光学系はベース機をそのまま使用することが可能で、外観上もベース機とほぼ変わりません。図4はYD-3000A全体図です。
図4 YD-3000A 全体図
本機も、ベース機の基本構成を踏襲しているので、ベース機の標準オプションである撮像観察ユニットをそのまま使用することができます。
図5 ガルバノコントローラ Model:3000CD
新世代レーザーに対応した3Dガルバノヘッドユニットの製品化に合わせ、ガルバノ制御を実現するコントローラの機能強化を図りました。
ハイブリッドレーザーとリングモードレーザーは、いずれも2系統のレーザーを独立して制御する必要があるため、動作プログラムに2つのレーザーパワーを引数として設定可能となるようにガルバノコントローラ3000CD(図5)の機能追加を行いました。
高反射材料への吸収率が高いBlueレーザーと、ハイパワーで集光特性に優れたIRレーザーとを重畳することで、IR単独では達成できない深い溶け込みを得ることができます。またIRレーザーより広範囲を照査するBlueレーザーが溶融金属の振る舞いを安定化させることで、スパッタの発生を抑制する効果があり、生産性の向上に寄与します。
当社の3D方式は、カバーエリア周辺部にスキャンしても、BlueレーザーとIRレーザーにずれが生じない(倍率色収差の発生がない)構成となっており、2D方式によるハイブリッドスキャナと比較して優位性があります。
リングモードレーザー対応機では、ガルバノコントローラに追加した2系統レーザーパワー制御機能により、プロセスごとに最適なパワー比を設定可能で、低スパッタで生産性の高い溶接を行うことができます。センタービームとリングビームはともにIRであり、本来銅などの高反射材料への吸収率は高くないのですが、銅のバスバー溶接の用途で、パワー比率と集光径の最適化により、良好な結果を得た事例も報告されており、鉄材(車体溶接)や銅(モータ巻線やバスバー)など、対象金属を問わず、多くの用途での採用が見込まれています。本製品は2023年中に発売を予定しています。
ガルバノコントローラ3000CDでは、レーザーを照射するコマンドに、独立した2つのパワー引数を設定可能とすることで、ハイブリッドレーザーやリングモードレーザーなど、2系統の発振器をもつ新世代レーザーに対して、それぞれを自在にパワー制御することが可能です。これにより、プロセスごとに条件の設定が可能となり、常に最適な溶接を実現します。
ハイブリッドレーザー対応機、リングモードレーザー対応機ともに、今後想定されるレーザーのハイパワー化に対応していきます。現在は主として銅の溶接での引合いが多いですが、今後は、割れやすいアルミ溶接への応用や、従来のシングルコアでは生産性の限界に達しつつある車体などの薄板溶接への応用といった市場ニーズに応えていきます。そして、これらの製品により、ますます競争激化するEV関連コンポーネントの生産性向上を通じて、社会に貢献していきます。