テクニカルレポート 2022 No.6
世界最高レベルの超高効率・薄型設計モータで脱炭素社会の実現に貢献
~永久磁石形同期モータ エコPMモータ フラットタイプの開発~

2022年12月16日

開発の背景・経緯

永久磁石形同

近年、SDGs達成に向けて脱炭素社会の実現が世界共通の目標となる中、環境への配慮は企業にとって重要課題となっています。各国においても政府による環境規制などを受けて、製造業を中心に企業側でも省エネやカーボンニュートラルへの取組みに対する高まりがあります。特に世界の全電力消費量の40~50%を占めるとされる※1モータの高効率化は重要となります。
こうした背景を受け、当社は創業以来100年にわたり培ってきたモータ技術・パワー変換技術を活用した省エネ新製品、エコPMモータ フラットタイプ(全シリーズ42機種※2)を2022年3月に製品化しました。高効率および小型化を徹底的に追求した本製品は、お客さまの機械・設備の生産性・省エネを飛躍的に向上させ、世の中のCO2排出削減に貢献します。

全てのモータ容量(7種類)と定格回転速度(6種類)の組合せにより全42機種をシリーズ化しています。

開発機種の特長

エコPMモータ フラットタイプの4つの特長を示します。

1.世界最高IE5レベルの高効率

世界最高IE5レベルの高効率

各国でモータの効率規制が導入され、日本においても2015年4月からトップランナー制度の対象となり、IEC規格の効率クラス※3IE3以上が求められています。
エコPMモータ フラットタイプは当社のPMモータとして、世界最高レベルである効率クラスIE5以上を初めて達成しました(右図)。

PMモータは回転子(ロータ)に永久磁石を配し同期速度で運転するため、二次銅損がなく誘導モータよりも高効率となります。さらに、
・ハイグレードコア材料の採用とコア形状と積厚の最適化で鉄損を低減
・集中巻・高密度巻線により銅損を低減
・ステータコアおよびロータコア形状を最適化することでEMF(誘起電圧)波形を改善
などの方策を実施し、シリーズ全機種で効率クラスIE5を優に超える効率値を達成しました。

高負荷の全領域で総合効率が向上

また、当社の小型高機能インバータ(GA500)はPMモータ用アドバンスベクトル制御を搭載しており、PMモータの磁極位置を検出しながら駆動できるため電力を最小限に抑えることができ、エコPMモータ フラットタイプと組み合わせることで低負荷から高負荷の全領域で総合効率が向上します(右図)。

2.フラット型

前述の様々な方策により高効率IE5以上を達成し、かつモータ形状をフラット型にしたことで、モータ本体部全長が大幅に短縮できました。さらに、効率的に放熱できる形状に冷却構造を最適化できる最新の熱設計※4と世界最高レベルIE5の高効率を実現するモータ設計により冷却用ファンを削減しました。これらの設計技術により、トップランナーモータ比で、モータ全長は最大70%短縮、モータ体積は50~75%減少を達成しました。

フラット型

小型化に貢献


また、他社製IE5モータ(SynRM)やPMモータと比較しても大幅なモータ全長の短縮となります。右図に、5.5kW機種での比較を示します。

エコPMモータ フラットタイプを採用することで、お客さまの機械・設備の面積、容積を削減することが可能となり、機械・設備の設計自由度の飛躍的な向上、小型化に貢献します。

3.低騒音

低騒音

シリーズ全機種でファンレスを実現しており、騒音の要因であるファンをなくすことで、風切音がなくなり低騒音を実現しました。特に、高速機種では従来機種より騒音レベルを3~5dB低減しています。エコPMモータ フラットタイプ(3.7kW,3600min-1)では約60dBの騒音レベルを実現しています。

4.省メンテナンス

省メンテナンス

ファンレス構造により、ファン交換およびファンカバー清掃(目詰まり防止)等のメンテナンスが不要です。
これに伴い、メンテナンス用スペース(ファン交換用サービススペース)や冷却風用のスペースの削減が可能となります。

※3 IEC規格の効率クラスとは
モータ単体の効率クラスは、効率の高いクラスから順に、IE5(ウルトラプレミアム効率)、IE4(スーパープレミアム効率)、IE3(プレミアム効率)、IE2(高効率)、IE1(標準効率)となっており、 これは国際電気標準会議(IEC)のIEC60034-30で規定されています。

※4 最新の熱設計とは
温度や気流分布を解析することでモータの設計段階に温度特性の予測ができるため試作品を作ることなく冷却構造を最適化することが可能です。

IE5(ウルトラプレミアム効率)

開発機種置換えによる効果

標準誘導モータ(効率クラスIE3)から、エコPMモータ フラットタイプに置き換えた場合の省エネ・脱炭素・経済効果を紹介します。

1.省エネ効果または脱炭素効果~消費電力およびCO2を削減

モータ容量1.5~15kWの7機種について、以下条件でそれぞれ1年、3年、5年使用するとして、消費電力削減量およびCO2削減量※5算出し、下図に示します。15kWのエコPMモータ フラットタイプを5年間使用すると、消費電力は約15,000kWh,CO2は約8700kgの削減効果が得られます。

条件:モータ単体(回転速度1800min-1機種)が定格出力で年間5000h運転した場合

※5 CO2削減量は1kWhあたり0.571kgで計算

エコPMモータ フラットタイプに

2.経済効果

電力量料金削減効果

以下の条件で、電力量料金削減額を算出しました。エコPMモータ フラットタイプに置き換えることで、年間約380万円の電力量料金の削減が可能です。

条件:オフィスビル空調で、3.7kW機種(回転速度1500min-1)を300台設置、負荷率50%で年間6000h運転すると仮定した場合

電力量料金の削減

※6 モータ単体での消費電力量比較(インバータは含まず)
※7 消費電力料金単価19円/kWhで計算

スペース削減効果

オフィスビル空調において、ユニットスペースを削減することで、フロア有効面積が増加します。以下の条件で40フロアに1フロアあたり空調ユニット7台設置するとして、エコPMモータ フラットタイプに置き換えた場合、フロアあたり4.2m2のスペースが削減されます。効果と経済効果(ユニットスペース削減でフロア有効面積が増加することによるメリット)を達成することができます。

条件:ユニット長さ寸法短縮0.3m/台、ユニット設置スペース幅2.0m/台
効果算出式:フロアあたりスペース削減面積=0.3m × 2.0m =0.6m2/台
1フロアあたり7台のユニット設置=0.6m2×7台=4.2m2/フロア


参考までに、スペース削減を金額(賃借料)に換算します。以下条件で、エコPMモータ フラットタイプに置き換えた場合、削減スペース部分の賃借料は、年間約2500万円となります。

条件:フロアあたり4.2m2のスペース削減
効果算出式:4.2m2÷3.3m2×賃借料4万円/月・坪※8×40フロア=204万円/月(約2500万円/年)

※8 坪(=3.3m2)あたりの賃借料を4万円/月と仮定して計算

「2022年度(第71回)電機工業技術功績者表彰 優良賞」を受賞

エコPMモータ フラットタイプは脱炭素社会の実現に貢献する超高効率薄型同期モータとして優良な技術的成果を示し、電機工業技術の進歩発達に貢献したと評価され、「2022年度(第71回)電機工業技術功績者表彰※9 優良賞」を受賞しました。

  • ※9 電機工業技術功績者表彰とは
    一般社団法人 日本電機工業会(JEMA)が、技術の向上と合理化意欲を刺激して業界の発展に資するため、
    電機工業の進歩発展に貢献した個人を表彰する賞です。

今後の展望

脱炭素社会の実現には電力消費量の40~50%を占めているモータの高効率化が必要だと当社は考えています。その第一ステップとしてファン・ポンプ(てい減トルク)用途向けにエコPMモータ フラットタイプを製品化しました。次のステップとして、押出機・クレーン・コンプレッサなどの定トルク用途にも展開するとともに国内外のお客さまのカーボンニュートラルに向けた取組みへの貢献を目指します。

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