テクニカルレポート 2021 No.1
振動レスで精密な動きを実現~半導体ウエハ搬送ロボット

2021年9月30日

半導体ウエハ搬送ロボットに求められるもの

半導体ウエハ搬送ロボットは、半導体製造装置内でウエハなどの搬送用途として使用されます。
ウエハを指定する位置に運びたい、ウエハにストレスをかけずに今までと同じ搬送枚数を安全に搬送したい、今までと同じスペースにより多数のウエハを収納したい、などの要望があります。当社はこうした要望に応えるため、より低振動で高精度な搬送ロボットの開発を進めています。

半導体ウエハ搬送時の課題

従来のウエハ搬送ロボットはギヤを使った構造となっており、搬送時にギヤから発生する振動でウエハを把持するハンドが振動します。振動により搬送中にウエハが滑るためメカニカルに把持する必要があり、ウエハへのダメージやパーティクル発生の課題がありました。また、ギヤによるバックラッシュやヒステリシスが搬送精度を悪化させる要因ともなっていました。

半導体ウエハ搬送クリーンロボット SEMISTAR-GEKKO MD124D の誕生

こうした状況の中、当社は、半導体ウエハ搬送用クリーンロボット SEMISTAR-GEKKO MD124D(以下MD124D)を製品化しました。低振動でより高精度な搬送が求められる中、当社モータの特長を最大限生かし、滑らかで精度の高い搬送が可能なウエハ搬送ロボットとなりました。

MD124Dの技術的特長

1.ダイレクトドライブモータを搭載

MD124Dはアーム部に、当社ACサーボモータ「Σ-7シリーズ」のダイレクトドライブモータ(以下DDモータ)を搭載しました。ギヤを廃止し、モータがアームを直接駆動させることで、アームからエンドエフェクタへの振動を大幅に低減しました(把持するハンドの振動10分の1以下(従来機種比))。
振動を低減したことで、振動による搬送中のウエハ滑りを抑えることができます。ウエハダメージレス搬送を可能としました。

2.ウエハ把持方式に Passive Grip を採用

ウエハ把持方式に Passive Grip を採用、ウエハへのダメージやパーティクル発生を抑えた搬送を実現しました。従来機種では、Edge GripやVacuum Gripを使用していました。Edge Grip はウエハをつかむ時の衝撃でパーティクルの発生やウエハへのダメージが生じます。また、Vacuum Grip は吸着によるウエハへのゆがみや吸着痕が残るなどの課題がありました。
Passive Gripは、ウエハをパットにのせるだけなので衝撃やゆがみが発生しません。しかし、Passive Grip の採用にはウエハが滑って落下しないようにウエハを低振動としつつも、かつ高速に搬送する技術が必要不可欠でした。
MD124DはギヤレスのDDモータで直接アームを駆動させることで低振動を実現しました。また、ギヤの廃止に伴い、バックラッシュやヒステリシスを無くし搬送精度も向上しました。あわせて、減速機のオイルなどケミカルコンタミネーションが懸念される部品がなくなったことによるリスク低減はお客さまの心配事も解決しています。

3.高精度搬送の実現

エンドエフェクタを高速に目的位置へ持って行くだけではウエハが滑ったり、落下してしまう恐れがあります。これを防ぐためウエハにかかる加減速度を一定にする制御を盛り込みました。あらゆるアーム姿勢においてウエハにかかる加減速度を0.5G(1G=9.8m/s2)以下に抑えることを実現。効率よく制御することで装置のスループットを最大化しました。
また、DDモータ駆動としたことにより、繰返し位置決め精度を2倍以上、絶対位値精度を従来機種の2倍に、縦振動、振幅を1/2以下とし、搬送精度40μmを実現しました。

  • 高精度搬送の実現

当社のロボット技術と制御技術を融合し、より低振動で高精度な搬送ロボットが誕生しました。

メンテナンス性の向上

モータの位置情報を保持するバッテリーの交換作業は、ロボットのメンテナンスにて課題となる作業です。半導体製造ラインに投入されたウエハ搬送ロボットは、ほぼ24時間365日フル稼働しており、バッテリー交換だけのために生産を止めることはできません。MD124Dはバッテリーレスとし、交換の手間と予備品コストの削減を実現しました。

日刊工業新聞社主催「第63回 十大新製品賞(本賞)」 を受賞

MD124Dはギヤレスにより低振動と高精度を両立し、半導体製造プロセスに貢献できる低ダメージ搬送を実現しました。また、バッテリーレスによりメンテナンス性が向上しました。これらのことが評価され、「第63回 十大新製品賞(本賞)」を受賞しました。

半導体ロボットの今後の展望

半導体産業は、今までのPCやスマホ/タブレットなどのニーズから、通信の5G化、自動車のEV化・自動運転や、あらゆる製品のIoT化とデータセンターの巨大化など、更に拡大していきます。この半導体産業からの要望を受けて、半導体ロボット市場も大気・真空環境下でのウエハ搬送のみならず、半導体パッケージなどの分野への発展も期待されています。
当社、半導体ロボットは安川電機のモーション・ロボット技術を駆使し、お客さまの困りごとを解決し続けるソリューションを販売力・製品力・生産力の3つの力を合わせて提供していきます。

 

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