テクニカルレポート 2023 No.5
食品産業界のスマート工場への進化
~2023 国際食品工業展の振返り~

2023年8月23日

はじめに

食品産業界では、人手不足、安全・安心の担保など多くの課題を抱えています。FOOMA JAPAN 2023では、”食品機械の最先端テクノロジー、製品、サービスを通して、「食の技術が拓く、ゆたかな未来」”をテーマに2023年6月に開催されました。
食品加工の自動化では、変種変量生産への対応、良品製造の強化、トレーサビリティー確保が要求されます。そのため、当社は、変種変量生産に対応する「i3-Mechatronics(アイキューブ メカトロニクス)」でのメカトロニクス技術を活用した自動化を展開しています。
本展示では、株式会社FAMS※1および株式会社アイキューブデジタル※2とともに「食を大変革」をテーマに、食品の入口である植物工場から食品製造ラインの自動化、データ連携・データ活用ソリューションの実演展示を行いました。

※1 株式会社FAMS
Food & Agriのお客さまへメカトロニクスの力で創造したソリューションを提供

※2 株式会社アイキューブデジタル
生産現場の自動化、最適化を実現するデジタルシステムインテグレータ

出展内容

当社は2025年ビジョンで掲げた「新たなメカトロニクス応用領域への挑戦」の一つとして、農業・食品加工の自動化を推進し、食の安全と安定供給を目指しています。
食品の原材料を生産する植物工場や食品加工工場を自動化することで、上流から下流まで一気通貫な食品生産システムを実現します。図1のように植物工場の隣に食品加工工場を建てると、野菜を原料にした食品の効率的な生産が可能となります。
本レポートでは、今回出展した図2に示すソリューションの中から”植物工場システム「アグリネ」”、”人協働ロボットによる「原料取出しシステム」”、”検査品質の安定化を支援するAI画像判定ソリューション「Y’s-Eye」”について紹介します。

  • 図1 植物工場と食品加工工場の自動化工程イメージ

    図1 植物工場と食品加工工場の自動化工程イメージ

  • 図2 出展製品・ソリューション

    図2 出展製品・ソリューション

1.植物工場システム「アグリネ」

近年では、1年中、安定した品質や価格で野菜を栽培できる植物工場のニーズが高まっています。そこで、自動化とデータ連携で野菜の安定生産を可能とする「アグリネ」を開発しました(図3)。アグリネの仕様を表1に示します。

植物工場システム「アグリネ」 図3 アグリネの概要

表1 アグリネ仕様表表1 アグリネ仕様表

図4 コマ&レール方式
図4 コマ&レール方式

自動化の一番のキーポイントは、独自開発のコマ&レール方式(図4)です(特許取得済)。野菜1株を1つの栽培コマで栽培し、それらを左右に引いたレール上で移動させることができます。発芽不良や成長しない苗の間引き、野菜の成長に合わせた野菜の間隔調整も1株単位で行うことが可能で、生育状況に応じてコマを毎日移動させます。レールの左端や右端に栽培コマが来ると、垂直搬送ロボットが栽培コマを1つずつハンドでつかみ、上段へ移し、収穫時期を待ちます。省スペース化のために高さ方向の空間を有効活用しています。収穫作業が高所であっても、人協働ロボット「MOTOMAN-HCシリーズ」※3により安全性を確保したうえで自動化し、さらに番重※4に詰める作業まで人協働ロボットが行います。
また、環境データを連携して、最適な生産環境を整えています。アグリネコントローラを用いて、光、養分、温度、湿度など、野菜に必要な環境データを収集しデータ活用することにより、安定した野菜の生産を実現するとともに、生産状況や設備状況を視える化しています。 “データでつながる、動きに変える”を実現しており、サステナブルな食の安全と安定供給に貢献しています。
今回の展示では、上記のコマ&レール方式の実演をデモ機で行いました。(図5)

図5 アグリネ デモ機図5 アグリネ デモ機

※3 人協働ロボット「MOTOMAN-HCシリーズ」とは
ロボット操作に不慣れな作業者でも簡単に操作が可能なダイレクトティーチ機能、押して運べる台車にMOTOMAN-HC10DTPを搭載したハンドキャリータイプ、サニタリー性を向上した特殊表面処理・食品仕様MOTOMAN-HC10DTFPなど、食品産業界のニーズに適した製品ラインアップを強化しています。

※4 番重(ばんじゅう)とは
食品業界で使用される薄型の運送容器

2.人協働ロボットによる「原料取出しシステム」

図6 原料取出しシステムイメージ
図6 原料取出しシステムイメージ

図7 原料取出しシステム デモ機
図7 原料取出しシステム デモ機

食品加工工場へ入荷した原料の取出し工程で人協働ロボット「MOTOMAN-HCシリーズ」を活用した自動化ラインを紹介します。
変種変量生産の場合、生産レシピに応じて原料の種類や数が異なり、原料箱の変化や増減が常時発生し、作業スペースを固定化できないので、自動化が難しいという問題がありました。食品加工工場の入荷・下処理の原料取出し工程では、図6に示すようにロボットのリーチを生かし、ロボットの周辺に棚を設置し、高さ方向の空間をフレキシブルにすることにより、作業スペースを固定化し、自動化を実現しました。
自動化することで、生産レシピのデータと連携した原料管理の自動化が可能となります。

展示会では、原料保管棚を設けた原料取出しシステムを2台のロボットで実演しました(図7)。原料保管棚をすくい出しロボットの周辺に設置し、すくい出しロボットが、棚に置かれた原料容器をすくい出し、取出しロボットが原料容器から原料を取り出し、次のラインへ配送するシステムになっています。

3.検査品質の安定化を支援するAI画像判定ソリューション「Y’s-Eye」

品質検査工程で用いる、AI画像判定ソリューションを紹介します。
食品は個体差が大きく、目視検査では品質検査基準が曖昧となり、品質にばらつきが生じるという問題を解決するために昨年度開発したAI画像判定ソリューション「Y’s-Eye(ワイズアイ)」を更に進化させた「Y’s-Eye(ワイズアイ)コンパクト」を開発しました。

図8 システム構成
図8 システム構成

図9 検査システム内部
図9 検査システム内部


Y’s-Eyeコンパクトは、図8に示すように、AIスマートカメラを使った検査システムと、不良品除去の機構で構成されています。
検査システムでは、流れてきた食品をAIスマートカメラで撮影し、その画像をAI画像解析技術により良品/不良品を判定します(図9)。ここで使われているAI判定モデルは、照明の明るさ、ピントずれ、対象物の向きなど、正確な検査に欠かせない撮像部分にも配慮した設計であり、設定後はそのままポンっと置くだけで検査を開始できます。カスタマイズ要らずで、すぐに検査を始められる製品です。その後、コンベヤで不良品除去機構まで運ばれて、不良品は、エアジェットで不良品箱へ除去されます。表2に、仕様・動作環境を示します。
Y’s-Eyeコンパクトは、AI搭載のAIスマートカメラとして一体型にすることで1m四方に納まる設計を実現しました。
また、シンプルなシステム構成にすることで、180個/minの安定的かつ高速な検査ができます。

今回のデモでは、冷凍ハンバーグの品質検査作業を想定し、焦げ、割れ欠けなどの形状不良をAIで検査し、不良品を除去しました(図10)。実際の導入事例として、毛髪やビニール片を検知した例も展示しました。

  • 表2 仕様・動作環境表2 仕様・動作環境

    ※標準の仕様であり、お客様の環境に応じて変更する場合があります。

  • 図10 Y’s-Eyeコンパクト デモ

    図10 Y’s-Eyeコンパクト デモ

おわりに

今回は、メカトロニクスのコア技術を結集し、“データでつながる、動きに変える”をテーマに、3社が連携してFOOMA JAPAN 2023で食品加工の上流から下流までの一環システムを実現することで、ソリューションを提案しました。今後も、当社のメカトロニクス技術をベースに、農業・食品加工分野の自動化やデータ活用を実現することで、サステナブルな食の安全と安定供給に貢献することに取り組んでいきます。
今後とも、市場ニーズに合わせて進化する安川グループにご期待ください。

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