テクニカルレポート 2023 No.2
サーボパックでセンシングデータの収集や一次解析に加えモーション制御へのフィードバックが可能に
~ACサーボドライブ Σ-Xシリーズ Σ-XS FT55/FT56の開発~

2023年4月17日

開発の背景

当社は2021年3月に「進化を加速するモーション×デジタルデータソリューション」をコンセプトにACサーボドライブΣ-Xシリーズを製品化しました。Σ-Xシリーズは高機能・高性能化に加えて、センシングデータを活用して当社ソリューションコンセプト「i3-Mechatronics(アイキューブ メカトロニクス)」を実践する製品として多くのお客さまからご好評をいただいています。

ACサーボドライブ Σ-Xシリーズ Σ-XS FT55/FT56の開発

IoT技術の進化により、工場にある装置から様々なデータを取ることができるようになってきました。それらのデータを活用した装置の予防保全や生産品質向上など、止まらない工場への進化に向けた取組みが加速しています。装置の予防保全や生産品質向上には、装置や生産品の状態を示した意味のあるデータを集めることが求められています。

このようなニーズに応えるため、標準品のサーボパックにお客さまの装置や用途に応じた最適な機能を追加し「FT仕様」としてラインアップしていますが、その一つとして、センシングデータのカスタマイズ機能を備えたΣ-Xシリーズ Σ-XS FT55/FT56(以下Σ-XS FT55/56)を2023年1月に製品化しました。これらの機種を使用することで、∑-XS標準機種と比較し、より柔軟で高度なデータ活用が実現できます。

開発機種 Σ-XS FT55/FT56(センシングデータカスタマイズ機能)のコンセプト

装置の予防保全や生産品質向上には、装置から様々なデータを取ることが重要となります。一般的に装置の稼働状態や生産品質状態などのデータは、上位コントローラや上位システムに集められます(図1)。

図1 データ収集の流れ
図1 データ収集の流れ

一方、サーボパックは、サーボモータを高速・高精度に制御しつつ、リアルタイムにサーボモータの位置、速度、トルク、稼働状態などを監視しています。サーボパックが扱うこれらのデータ(センシングデータ)には、装置の稼働状態や、生産品質の状態を示すデータが含まれていますが、データ量が膨大なため、その一部だけしかコントローラへ送信されません。
こうした、サーボパックの中に眠る膨大なデータを、ユーザーアプリケーションによって最大限活用し、各装置に最適なソリューションをサーボパックとして提供することが本開発のコンセプトです。
本コンセプトを実現することで、従来のコントローラによるセル全体に最適な制御に加え、サーボパックがデータを基に自律的に動作できるようになるため装置単位での最適化も可能となり、セル全体の進化をもたらします。

開発機種 Σ-XS FT55/FT56の特長

Σ-XS FT55/FT56は、コントローラ用エンジニアリングツールMPE720を用いることで、サーボパック内にユーザーがアプリケーション(プログラム)を組むことができるユーザーカスタマイズ機能を付加した製品です。ユーザーカスタマイズ機能を用いることで、サーボパック内でセンシングデータの収集や一次解析に加えモーション制御へのフィードバックを行うことができます。この機能によりコントローラの処理負荷を軽減するとともに、上位コントローラの処理周期やネットワークの遅延に依存しないデータ処理が分散した形で最適化でき、今まで以上に装置の高機能化・高性能化に貢献できます。

Σ-XS FT55/FT56は標準サーボパックに下記の3機能を付加しているのが特長です。

① センシングデータカスタマイズ機能(Σ-XS FT55/FT56共通)

センシングデータカスタマイズ機能は、サーボパック内で実行するユーザーアプリケーションでサーボパックのセンシングデータを収集し一次解析する機能です。

センシングデータカスタマイズ機能 説明図
図2 センシングデータカスタマイズ機能 説明図

Σ-XSFT55/FT56では、センシングデータ(位置/速度/トルクに関するデータ、サーボモータやサーボパックの稼働状態のデータなど)を最速125μsで高速に収集できるとともに、センサーネットワークΣ-LINKⅡ※1に接続された外部センサーからのデータもサーボパックの制御周期に合わせてユーザーアプリケーションで収集できます(図2)。

これらのセンシングデータを用いて精度の高い解析(最大値・最小値の検出、イベント回数のカウント、状態監視)を行い、装置に最適なデータにカスタマイズして上位コントローラへフィードバックすることで、装置の予防保全や生産品質向上に貢献できます。

② 機器間データ共有機能(Σ-XS FT55/FT56共通)

機器間データ共有機能 説明図
図3 機器間データ共有機能 説明図

サーボパック間の機器間データ共有機能は、同じMECHATROLINK-4ネットワークに接続された他のサーボパック(Σ-XS FT55/FT56)のセンシングデータを伝送周期ごとにサイクリックに共有する機能です。1軸あたり32[byte]のデータを最大5軸まで共有できます(図3)。

サーボパック間のデータ共有機能を活用することで他のサーボパックの位置情報や稼働状態が把握できます。これにより自軸だけではなく、他軸を含めたより高度なセンシングデータの解析が可能となります。

③ カスタムモーション機能(Σ-XS FT56のみ)

カスタムモーション機能は、サーボパック内のユーザーアプリケーションから直接モータを制御できる機能です。コントローラMP3000シリーズのカスタム動作モーションコマンドが指令されている間、サーボパックが独自にモーション制御(位置決め、定速送り、補間制御、速度制御、トルク制御)を実行することができます。

カスタムモーション機能 説明図
図4 カスタムモーション機能 説明図

サーボパックが自律して動作することで上位コントローラの処理負荷を軽減するとともに、上位コントローラの処理周期やネットワークの遅延に依存しない高速なモーション制御が行えます。また、サーボパック間の機器間データ共有機能およびセンサーネットワークΣ-LINKⅡに接続された外部センサーを利用し、複数軸で連携したモーション制御を実現できます(図4)。

本機能によって、より高速・高精度なモーション制御が実現でき、生産品質向上や装置性能の向上、付加価値向上につながる装置アプリケーションに貢献できます。

※1 Σ-LINKⅡ とは
サーボと各種センサーの情報を一本化して収集するネットワーク。高精度なモーション制御を実現するのにかかせない信頼性の高いエンコーダの高速通信技術を活用したセンサーネットワーク。モーションデータとセンサーデータを同期して収集することが可能。

開発機種 Σ-XS FT55/FT56のユーザーアプリケーションを実現するエンジニアリングツールMPE720 Ver.7

Σ-XS FT55/FT56のユーザーアプリケーションのエンジニアリングは、従来のMPシリーズと同じMPE720 Ver.7で行います。MP3000シリーズとΣ-XS FT55/FT56を組み合わせたシステムでは、シームレスにエンジニアリングできます。このユーザーアプリケーションを使って、より詳細なデータ分析ができ装置の予防保全や生産品質向上に活用できます(図5)。

エンジニアリングツールMPE720 Ver.7 プログラミング例
図5 エンジニアリングツールMPE720 Ver.7 プログラミング例

Σ-XS FT55/FT56の活用例~高精度データによる解析処理とコントローラの負荷分散

Σ-XS FT55/56のようにサーボパックをカスタマイズできる機能を備えている機種は業界内でも少なく、Σ-XS FT55/56を使用することでよりデータ活用を最適化できます。
活用例として、検査装置内でワークの形状をレーザー測長する例を説明します(図6)。

検査装置内でワークの形状をレーザー測長する例
図6 検査装置内でワークの形状をレーザー測長する例

一般的に外部センサーのデータはコントローラに取り込まれ、コントローラの制御周期で処理されます。一方、Σ-XS FT55/56では、ΣーLINKⅡで外部センサーと接続し、外部センサーのデータはサーボパックに取り込まれ、サーボパックの制御周期と同期して処理できます。
図7にレーザー測長器のデータ処理の比較を示します。一般的なコントローラと比較して∑-XS FT55/56では、コントローラの制御周期より短いサーボパックの制御周期でデータを収集することでより細かく測定でき、精度の高いデータの分析ができます。加えて、一次解析(最大値、最小値の算出や形状の確認など)をサーボパックで分散して処理させることで、コントローラの処理負荷を軽減できます。
このように、XS FT55/56では、外部センサーとサーボパック制御との同期性を保ちながら、システムが持つ情報の質を高めることができます。

データ処理の比較
図7 データ処理の比較

今後の生産現場のものづくりについて

今回、Σ-Xシリーズのラインアップにサーボパックでセンシングデータのカスタマイズを行う機種(Σ-XS FT55/FT56)を加えました。これらの機種を使用することで、生産現場で起こる変化に対応しながら、データを活用した装置の予防保全や生産品質の向上および、付加価値向上につながるユーザーアプリケーションが実現でき、効率的な生産、高品質で安定した生産を行う止まらない工場の実現に貢献します。
また今後は、サーボパックのインテリジェント化を進め、高度なデータ活用を加速させていきます。引き続き、お客さまの課題解決に寄与するとともに、更なる技術の向上を目指していきます。

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